十一の巻

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十一の巻

<那子のお方様、大変でございます。女御さまが…お急ぎ、産屋のほうへお急ぎくださいませ> 血相変えて呼びに来た女房を見て女御の身に異変か…と案内させられるまま、女御の産室へ急いだそこには、ぐったりとしている女御と二人の赤子がいた。 どうやら女御のお腹が異様に大きかったのは、双子を宿していたからのようだ。 <なんということだ。念願の皇子かと思えば、双子だなんて。こんなことが宮中に知れれば…> この時代、双子は吉凶の証と言われていた。しかも男女となるとなおさらに中傷は避けられない。左大臣の地位すら、この皇子を帝になんて遠い夢となってしまう。 <ええい、生まれてきてよいのは皇子だけぞ。皇子一人でよいのだ> 左大臣、悠惟は、女房に抱かれている姫を荒々しく取り上げた。恐ろしい般若の顔つきで。 <なんと恐れ多いことを。双子であろうと帝の御子ですよ。いかに大臣とはいえ、女御さまの父とはいえ、生まれたばかりの子をそんなに荒々しくしたら、死んでしまうではございませんか。女御さまがお苦しみながら、お産みになったのに> 何をしでかすか、わからぬ形相の左大臣から、那子は慌てて取り戻した。だか赤宮は、弱々しい泣き声で泣き、疲れたように泣きやんだ<まるで薫子さまのようだ> 那子は先に亡くなった内親王、薫子の面影を赤宮に見ていた。 <そなたのせいじゃ。那子殿、 このわしが早くから皇子誕生の祈祷を依頼したのを断り続けた。そのせいで女御のお腹の中で二人となってしまったのだ。何が強い神通力だ。それともこのわしが憎いからか。ええい、那子殿、そなたが責任を取るべきじゃ> もはや冷静さを失い支離滅裂に内親王である那子を罵りはじめた。 <お黙り、藤原悠惟、お前は誰に向かって口を効いている。私は先帝、崇司帝の内親王ぞ、常磐帝の四の宮敦仁親王の女御ぞ。この場でのお前の乱行、帝に報告すれば、お前は大臣の任は解かれよう。これぞ、父帝の無念を晴らす時よ。帝の御子は帝の生まれかわりだ。それを、双子の姫だからといって家臣ごときのお前が自由にしていいものではない>
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