十一の巻

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<那子さま…> さすがの燿子も、激高する父、悠惟と、神の声のような那子のやりとりで目を覚ましたようだ。 そして我が子を目で追った。 すかさず、悠惟は、若宮を娘に対面させた。 <よく頑張られた。皇子じゃ、若宮じゃ。これでそなたを中宮にしてやれる。帝もお喜びになろう> しかし、燿子の顔は暗に曇っていた。 <父上、もう一人の和子はどこに> 燿子はあきらかに二人産んだのを覚えていた。 自分の身からこの世に送りだしたのだ。忘れるはずがない。 <これはおかしなことを。そなたが産んだのは、この若宮、お一人ぞ。夢でも見たのであろう。双子など吉凶じゃ。そんなことがあってはならぬのじゃ> あくまでも燿子に姫宮の存在を隠し通すつもりのようだ。 だが母はどんなことがあっても産んだ子のことは覚えている。 この身が裂ける思いで産むのだから。 だがさすがに初産で双子を産んだ燿子は、皇子を生むのに力果て、姫は産婆が後半は意識が混濁してい引きずりだすようにして出産した。ほぼ仮死状態だった。 父の言う通り、あれは夢だったのかと思いかけた時、衝立の向こうから、弱々しいが赤子の泣く声が聞こえた。 明らかに若宮でない赤子の声、周囲の女房や父、母までもが顔色を変え、衝立の向こうに向けて舌打ちした。 燿子の脳裏に思いだされた。<皇子さまです。おめで…やや、もう一人、おられます。なんと>産婆の喜びと驚愕の重なる声を確かにきいた。 <間違いありません。私は二人の子を産みましたもう一人の私の子は> <女御さま、双子は吉凶の証、後から生まれた子は、露払いとして、抹殺される運命じゃ> だが頑として女御は子供に合わせてほしいと懇願した。 <女御さま、お忘れなさい。この若宮を帝にふさわしい皇子に育てるのがあなたの役目だ。またすぐに御子に恵まれよう。さあ、産後の体で興奮するのはよくない。お休みなされ> 普段なら、父に逆らうことなど知らぬ燿子だったしかし、母となると、こうも違うものか。 <たとい双子であっても帝は喜んでくださいます私の子を帝の御子を返してくださいませ> 今までになかった燿子の反論に悠惟は、言葉を失った。
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