十一の巻

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<左大臣殿は帝の生まれたばかりの姫宮様を乱暴に扱われた。十分、咎に値しましょう> <帝に報告するつもりか双子が生まれたことを><当然ですわね。帝の御子なのですから> <そんなことが宮中に知れたら、女御さまや皇子がどうなるか…> 那子は品よく、かつ冷淡な瞳を左大臣、悠惟に向けた。 <ご安心なさい。女御さまや皇子さまに咎は及びませんわ。咎を受けていただくのは、左大臣殿、あなたですわ> <ふん>嘲る思いとともに背中が冷やりとする那子の余裕の目が怖かった。<姫宮は私の子として育てます。私は身重ですから里下がりします。身重と承知で左大臣殿は私を女御さまの祈祷に引きずりだし、ふた月に及んで拘束した。懐妊がわかるほどになっても解放しなかった。宮中は噂が噂を呼びますからね。帝もあなたを放免にしておくわけには参りませんでしょう> <そんな噂など握りつぶしてくれよう> 那子と燿子の女御は、同じようにため息をついた<女御さま、お許しいただけますか> <お任せいたします。たとい父でもこの姫の命は帝のものですから> <では姫宮さまはお預かりいたします。しばし留守にいたしますが、また宮中でお目見えいたしましょう> 那子は姫宮を女御から託されると静かに悠惟の横をすり抜けた。 <やっと父の無念がはらせますわ> 口角に笑みと冷たい視線で悠惟に反論させず、藤原の屋敷を夜の闇に乗じて去っていった。
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