十二の巻

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十二の巻

慧仁親王は、突然の、那子の里下がりに驚いた。しかもその腕には、生まれたばかりの赤子を抱いているではないか。 那子が藤原悠惟の屋敷に呼ばれていて、燿子の女御のお産が近いこともわかっていたし、宮中では生まれてくる御子の話しで持ちきりだった。 那子からすべての事情を聞いた。 悠惟の態度にまた憤慨した。 <いくら双子とはいえ、命を奪おうとするなんてこと、何も那子に押し付けなくても、ご自身の娘がいたであろう。常盤帝の御子だ、桔梗殿の女御は左大臣殿の妹だ、皇女もお一人いらっしゃる。そちらに預かってもらうのが自然であったろう> <余計に危険ですわ。藤原の悠惟は、この姫の存在を消そうとしますわ。真実がもれないとは限りませんもの。義父上、帝に報告し、左大臣の職を奪うべきですわ。あの左大臣は私にひどい暴言を言ったのですよ。敦仁親王様まで見下して> 那子はさめざめと泣きだした。 <左大臣がいなければ帝とて、東宮、綾仁さまに譲位も叶う。沙子姉様も生母様を、御所にお呼びできましょう> <そなたとて敦仁親王に相談もなく決めてよいのか> <親王さまの御子は一人もおりません。懐妊のため、里下がりしたとお伝えください。帝にはしかと…> <わかった。明日には左大臣殿も参内して皇子の誕生を報告するであろう今夜のうちに帝の耳に入れておかねば> 慧仁は、内裏に使者をだし参内の支度をして、内密に帝の寝所を訪ねた。そこで燿子の女御が男女の双子を産み、姫を藤原悠惟が抹殺しようとした行為があったこと、邪魔にされた姫は那子の女御が実子として育てるため、懐妊が明確なため、里下がりと称して慧仁親王の屋敷に帰っていること懐妊の兆しがある女御を無理やり屋敷に招き、懐妊がはっきりしても燿子の女御のお産まで監禁状態で祈祷させたとして左大臣の任を解いていただきたい。帝の御子を殺そうとしたことさえ、重罪帝の御子を他人に任せるなど許されていいことではないと強く進言した。<わかった、明日、参内したら真心を問い任を解こう。私もこれで隠居できるかもな> ふと奥底にあった左大臣の圧力を感じられる言葉がもれた。
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