一の巻

2/2
55人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
時の権力者左大臣、藤原悠惟(ゆうい)の屋敷からは、加持祈祷を行う僧侶の読経の声が聞こえていた。 お産の折りは、帝の許しを受け、早々に里下がりと称して実家で出産する予定日が近づくと僧侶が呼ばれ、護摩団を炊き祈祷が行われる。 お産は命がけ、その理由は魑魅魍魎たちが取り憑きお産を邪魔しようとしていると言われていた。さすがに権力者、殿上人の頂点と言われる左大臣、藤原悠惟の屋敷には、僧侶だけでなく除霊を行う御所の陰陽師が詰めていた。 その中に一人、別室を与えられ、結界を張り、祈り続けている巫女がいた。巫女の名は常磐帝の二ノ皇子、慧の宮敦仁の妃、那子(なこ)内親王。先帝、崇司帝の末娘。 幼い時から華子中宮の次女、薫子(かおるこ)内親王付きの陰陽師、薫子の夭折後は燿子の女御の話し相手として敦仁親王のもとに嫁ぐまで、女御、燿子のいる藤壺に居していた。 なんとしても、娘、燿子には皇子を生んでもらわねばならぬのだ。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!