十二の巻

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翌日、誇らしい顔をして参内した左大臣、藤原悠惟。 居並ぶ大臣たちの前で皇子の誕生を報告できるとあってこの先に待ち受ける顛末など予想にもしていなかった。 <左大臣殿、無事に皇子が生まれたようだな。女御の様子はどうだ> 次の東宮、いや帝にすらできる権力を持つ左大臣に、居並ぶ大臣たちからは祝いの言葉であふれただが帝の目が喜んでいないことに少しの不安を覚えてた。 <時に左大臣、聞くところによれば、那子の女御は身重の身であったのを屋敷に呼び寄せたというのはまことか> この帝の言葉に、さすがの左大臣も背中が冷える思いだった。 しかも居並ぶ大臣たちもざわめき始めていた。 <那子の女御さまはたしか敦仁親王さまの…先帝の皇女さまじゃ> <身重とは存じあげておりません。皇子の誕生は那子様のおかげと感謝しております> <左大臣殿、私が何も知らぬと思っているのか、昨夜、そなたの屋敷から直接、慧仁親王殿の屋敷に姿を現した那子殿を見て、かなりのお怒りだ。それに、那子殿と敦仁を生母の身分が低いとあざり、数々の失言、侮辱に泣き崩れていたとも報告を受けておる。皇子の誕生を望んだとしても、身重の親王の妃をふた月にも渡って自由を奪うとは。> すでに那子の策略が動いているようだ、このままでは危ない、なんとか切りぬけなければ、頭をフル回転させようとした。その場にいつの間にか慧仁親王が座していた。 <左大臣殿、那子はやつれた様子で現れて、そなたから小娘だとか身分が低い姫だとみなの前で侮辱されたと泣きくずれ、興奮状態でお腹の子にも悪い、医師を呼んだほどなのだよ。それがどんな意味か、あなたにはおわかりではないですか> <叔父上よ、まことか> もはや逃げ場がない、藤原悠惟は悲壮感をはっきりと感じていた。
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