三の巻

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兄、樺讃帝が譲位すると言いだした。 先頃、寵愛していた藤壺の女御が流行り病で亡くなってしまい、嘆き悲しみ、周囲の反対を押し切り二年の在位で出家してしまったのだ。 あわただしく崇司帝の誕生となる。 出家し、樺讃院は仙洞御所に、同行する女御もいれば、里に戻っていく女たちもいた。 樺讃帝は、一人の女御のために帝の地位を降り出家までしてしまったのだから。 樺讃帝の子は、華子内親王だけとなる。 しかも、里屋敷に戻り、瀧宮院を継承した瀞子たち母子に、伊勢の斎宮の任期が与えられる。 わずか四歳の姫に母は同行した。 斎宮は占いにより選ばれる。 現役の皇女が選ばれることも、めずらしくはない幼い皇女が遠く伊勢の地に無事だどりつけずに亡くなってしまうものも、任期の途中て病に倒れるものすらいるのだ。 しばし、都から離れるいい機会だと承諾した。 旅立ちの挨拶で帝に接見帝は幼い姪に涙を見せ抱きしめた。 <すまぬ、こんな幼いそなたを斎宮として送らねばならぬことになろうとは。しばしこらえておくれ>涙に腫らした目で送りだされた。 父、樺讃院も驚き、嘆いた。 自分が早くに譲位したために娘が伊勢に下ることになろうとは。神仏からの罰であろうと嘆いた。瀧宮院瀞子は、幼い姫とともに都をあとにした。この斎宮の任期も長く続くことなく、この経験が姫を母が得ることのできなかった幸せをつかむプロローグにすぎないのだ
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