春雷

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「君に何があったのか、俺は知らない。だけどこう云うのは、感心しないな」 「誰っ!?」 「ー!?」 突如降ってきた声に弾かれたように驚いたのは、少年だけでなかった。振り返った少年を見た廉もまた、声こそ上げなかったものの、僅かに体を引いた。 振り向いた少年に巻かれていた包帯はただ単に頭部を被っていたのではなく、正確には、少年の両目を被っていたのだ。 よく見ると、怪我と思われる傷は無数にあった。顔には治りかけている細かい切り傷が。パジャマの襟から覗く胸元には、白い傷当てが。左右の袖口からはそれぞれ包帯が見えた。 「誰!誰なのっ!!」 少年は叫ぶと後退ろうとしたのだろうが、バランスを崩し、それを廉が支える形となった。 「大丈夫か?ーっと、」 少年は弾き飛ばすように廉の腕から体を離し、倒れこんだ。 たったそれだけの事だと云うのに、少年は肩は大きく上下していた。体力がないのだろうと云うのがわかる。 「仕方ないな」 「ー!?」 少年の体がふわりと浮いた。廉が抱き抱えるよう起こしたからである。 「ーーーーー…?」 直ぐにふわりと足から下ろされたが、下ろされた後も背に添えられた手はそのままだった。何故か、振り払う事が躊躇われた。 そんな少年を見下ろす廉が何かを懐かしみ、どこか悲しい眼差しを向けていることを、視界を奪われた少年が気付ける筈はなかった。 バタン! 不意に沈黙を破るよう、扉が大きな音を立てて開かれ、少年の名前が呼ばれた。 「珠生!」 声は女性のもので、その声の発し先を見ると、ここに来る前、エレベーター前でぶつかった女性であるのがわかった。ここに辿り着くまで、方々捜し回ったのだろう。息は上がり乱れ、疲れた感がはっきりと見られた。 そうして、当事者の“珠生”と呼ばれた少年の体が、その声にビクリと反応するのが触れていた廉の手に伝わった。 「珠生!あぁ…やっと見つけた…」 女性は駆け寄ると珠生を強く抱きしめた。もう離すまいとでも云うかのように。 しかし珠生は迷惑だと言わんばかりに、その手を振り払った。 「僕ことは放っておいてよ!!もう僕に構うな!」 口調は強気なものだったが、その叫びは泣いていると、廉は感じた。 「たま…き…」 絞りだすように発せられた言葉と見つめる眼差しは、震えていた。 「先生、息子がいました!」 捜し回っていたらしき父親、看護師、医師らが、次々と階下から駆け寄って来る。
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