春雷

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あっという間であった。珠生を乗せたタクシーも避け切れずその波にのまれ、衝撃に激しくその身を打ち付けた。 構えることもできず受けた痛みに、瞬間意識が飛んだものの、直ぐに意識は取り戻せた。 「っ…!」 痛む身体と、キーンと響く耳鳴りに眉をひそめながら身体を起こそうと、助手席のシートに手を掛けた。運転席を覗き込む形となったその視界に映ったのは、絶命した運転手の姿。 悪い夢を見ているのだろうか…? そんな思いにとらわれながら窓ガラス越しに外を見ると、茫然と立ちつくす者、携帯電話を手にする者、負傷者の救助に手を貸す者、無事を確認し抱き合うもの。その光景に、これは現実なのだと知った。 そんな中、一人の男が四方に向かって、何か叫んでいるのが視界に入った。 「…やく……ろ!………ぞ!!」 耳鳴りが治まらず、何を言っているのか分からなかったが、その様子から異変が理解できた。 珠生は、急ぎその場から離れようとドアノブに手を掛けたが、ドアはびくりとも動かなかった。力が足りないのかともう一度強く押したが、やはり開かなかった。 ならばと、助手席に身を乗り出しそこから出ようとしたが、ドアは大きく変形していて、開く気配が全くみられなかった。 無駄な試みだとは分かっていたが、窓ガラスを開けようとスイッチを押した。しかしエンジンが切れていては開くはずもなかった。 「ここを開けて!」と叫ぼうとした時だった。ドンッ!と云う重い衝撃がタクシーを揺らした。 何かの合図だったかのように、路上の者達が一斉に同方向を見ている。見ると、横倒しのトレーラーの後方から煙が上がっていた。一人、また一人と後退し始め、その場から人々が離れ始める。 珠生もまた、身動きが取れない中、目線を離せないまま後退った。ジリ、ジリ、と。 その時だった。さらなる大きな爆発音と激しい衝撃を受けたのは。 吸い込まれるような感覚だった。キラキラと降り注ぐ物がガラスの破片だと気付いた瞬間、両目を熱い痛みが襲った。 それはまるで、もう一人の自分がいるかのような感覚だった。 重く鈍く痛む身体よりも。晒されているこの状況よりも。この両目が再び見えるようになるまで、一体どれくらいの時間が必要なのだろうか。 冷静にそんなことを考えながら、珠生は、時期意識を手放した。
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