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「及川さん、佐藤さん。ここは合コン会場じゃありませんよ」
「師長!?」
声の方へと振り向くと、スライドドアの向こうに、眉を顰め3人を嗜める師長の姿があった。
「はい。申し訳ありません…😞」
「はぁい😜」
「(ほうら、怒られた🎵)」
胸の内で、そら見たことかと、笑いを噛み殺す高坂にも、師長のカミナリが落ちない筈がない。
「高坂さん。あなたもいつまでも新人気分でいられたら困ります。後輩の指導をするのも、あなたのすべきことですよ」
「…はい。以後気をつけます😢」
「全く、あなた達ときたら」
とその時だった。
ピピッ、と云う電子音と、一瞬の光が4人を包んだ。
驚く4人の視線は、1人の男に向けられた。それは、すれ違う看護師達を振り返らせ、先ほどまで3人の看護師達が繰り広げていたバトルのターゲット、津崎廉だった。
「つ…津崎さんっ!何をしてるんですか!!」
検査を終えた廉は、病衣から着替えている途中だった。そのためブラックのスリムジーンズ姿で、デジタルカメラを手に半身を覗かせたのである。
頬を高揚させる師長を余所に、手にしていたデジカメのモニターを覗き込むと、芝居がかった仕草で顎に手をやった。
「うーん。やっぱり師長さんは、笑顔の方がいいですね」
さらりとした口調に、師長は見る間に耳まで赤く染め、廉の手から奪うようにデジカメを取り上げた。画像を消すためである。
しかし条件反射で廉に勝る筈がなく、まるで子供がオモチャを取り上げるかのように、いとも簡単に奪い返されたのだった。
「駄目ですよ。これは俺が持って行きますから」
「ーーーーーーーーー…」
その言葉に、僅か、師長は眉を曇らせたが、3人の看護師達は気付くことはなかった。
「えっ、津崎さん、デジカメで撮った写真をコンクールとかに出したりしちゃうんですか?」
「ああ。そう云う意味じゃなくて…」
「お喋りはお終いいですよ。あなた達が騒いでたおかげで肝心なことを忘れるところでした」
さらに、遮るように、師長は口早に続けた。
「及川さんと高坂さんは第一処置室に入ってください。佐藤さんは私と一緒に宗田先生についてください。はい、急ぐ!」
急かすよう3人を追いたて、師長が廉に向き直った時だった。追い出されるかたちとなった、看護師達のやりとりが聞こえてきた。
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