春雷

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「師長だって好いって思ってるのよ」 「えっ!?師長、及川先輩にそう言ってたんですか?」 「言わないけど、分かっちゃったのよね。前に師長のマンションにおじゃました時、見たの。惣間啓介が出演してるドラマやら映画のDVDをね」 「あ、知ってる!ちょっと渋いおじサマですよね🎵」 「あの個性派俳優の?あ……でも何となくわかる気がするかも。津崎さんと惣間啓介って、顔立ちの系統だとかあの独特の雰囲気が似てますよね」 次第に遠退く会話を遮断するよう、師長は作ったような真面目な面持ちを作った。 「まず津崎さん。服を着てください」 「ハイハイ」 「はい。は1回でけっこうです」 「ハイ」 廉はクスリと笑い、シャツに袖を通した。そうして、脱衣カゴに掛けていたジャケットに手を伸ばそうと、屈みかけた時だった。 「津崎さん、ここの病理の、羽室先生をご存知?」 廉の動きが止まった。がしかしそれは一瞬で「さあ?」と言うと、流れるような仕草でジャケットを羽織った。 「そうですか。…羽室先生の勘違いね」 自身にそう呟く師長をチラりと横目に見やると、廉は「いいですよ」と声をかけた。 「え…あぁ、そうでした。肝心なことを…。申し訳ありません。澤村先生に急患が入ってしまい、検査結果についての説明時間を下げていただけないかとのことです。今日は、脳外科医の先生は澤村先生お1人なものですから…。もしくは、後日はいかがですか?」 「そう云う理由なら仕方ないですよ。後日、また伺います」 用事は済んだとばかりに立ち去ろうとした廉を、咳払いと共に師長が呼び止めた。 「ーコホン。先ほどの写真は消してくださいね」 「それは出来ないなぁ…」 即答で、それでいてどこかのらりとした楽しそうな口調でそう言うと、廉は患者用のイスに腰を下ろした。そうして胸のポケットからデジカメを少し覗かせるよう手にし「言ったでしょう。コレは俺が持ってイクんだって」と言い笑った。 師長はその言葉を推し量り、推し量るほど、廉の笑みに胸が痛んだ。
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