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「ーーー津崎さん。あなた、まだ自分を責めているの?だったら6年前の…弟さんのことはあなたの所為じゃ…。まして、」
「責めていますよ」
決して人を不快にさせるものではないが、日頃の会話は人を食った感のある言い回しで本心が掴みづらい廉であったが、時折、こんなふうにさらりと、ストレートに言う。
「でも、それだけじゃないんだなぁ…。残された者の贖罪。生きている者の、責務かな」
重い言葉とは裏腹に、廉の表情は穏やかで、笑みさえ浮かべられていた。それが師長の胸をえぐった。
「贖罪と責務って…。津崎さん、あの場合は誰だってそう言いますよ。愛する人に生きて欲しい。先ずそう思うのは、人としてごく自然な思いですよ」
「師長…」
穏やかに、ゆっくりと遮った。
「ありがとう」
ーと。
診察室を出た廉は直ぐには帰らず、その足で屋上に向かった。毎年一度は必ず訪れていたが、この2ヶ月ほどは決まって、病院に来た際には立ち寄っていた。
5階まではエレベーターを使うことにしていて、そのエレベーターを待っていると、開いたと同時飛び出してきた女性とぶつかった。
「すみません!」
随分と慌てた様子の、40歳になるかならないくらいの柔和な感じの女性は、短く詫びると角を曲がり、直ぐに見えなくなった。
ここは病院で、そう云う光景はさほど珍しいものではない。しかし廉にはその光景が小さな刺となって刺さった。
エレベーターを降りた足で屋上へと続く階段を上りながら、痛みの理由を思い返した。
『兄さん!』
記憶の中で、廉の名を呼ぶ陽に焼けた肌を持つ少年は、快活そうに笑った。
『オレ、県大会のメンバーに選ばれたよ!』
屋上へと抜ける扉に手を掛け、廉は黙祷するかのように目を閉じた。一呼吸置き、ゆっくりと扉開けると、柔らかい風が吹き抜けた。
後ろ手に閉めるとジャケットのポケットからタバコとライターを取り出し、慣れた手つきで一本、取り出した。
(あれは俺の…)
伏し目がちにタバコをくわえると、カチリとライターを点火させた。が、時折吹き付ける風が邪魔をし、上手く点かなかった。
もう一度点けようとした時だった。さらに強く風が吹き付け、その風が白く洗い上げられていた幾枚ものシーツを捲り上げた。
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