一章 紅い雨

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  振り降ろされた銀の閃光は親子二人を死へ誘う。 ーーはずだった。 「なんだ、貴様っ!」 いきなり現れた男に腕を掴まれ、刀が親子に当たらず、空中で制止されなければ。 黒い袴、黒が強い灰色の上衣と地味な服装のくせに、首に巻く襟巻だけは鮮血のような赤。 濡れたカラスの羽のような艶やかな髪は、珍しく髷(まげ)を結わず、伸ばしっぱなしと言われても仕方ないぼさぼさの総髪。 驚くべきは、さして大きな体という訳でもないのに、片手で、武士の全体重の乗った剣撃を止めているということだ。 「逃げて」 「えっ?」 「早く!」 あまりの出来事に唖然としている親子に声を荒げて促す。 そこで、はっとしたような表情になった母親が子供を抱きかかえたまま一目散に走り去った。  
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