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夜空を飛翔するナイトは、ビッグベンの頂に立ち、翼を畳んで地平の彼方を見つめた。
魔術師アルビオン・ラインハルトが造り出した、理想世界での決戦。闇の君主の一人である『憎悪』との戦いに敗れ、肉体を乗っ取られた。
薄れた意識の中で見たのは、炎の剣士と光の神によって倒される己だった。
「これも運命だというのか? アルビオンが生み出した世界で過ごし、戦い、今度は彼の娘のもとで生きる。この世界で僕は何をすべきなのだろう?」
思案を巡らせていると、下界から女性の悲鳴が聞こえた。
真紅の目を凝らしてみると、暗い路地裏で若い娘が三人の男に絡まれて、身包みを剥ぎ取られようとしている。
「この世界にも闇は蔓延っている。いや、この世界の闇はとても深く、大きい。アルビオンは、こんな世界に失望したのだろうか?」
呟きながらビッグベンから飛び降りたナイト。
頬を冷たい風が撫で、全身から黒い霧を吹き出して女性を襲っている男たちの中央に降り立った。
「な、なんだ! この霧は!?」
それが最後に聞こえた男の声だった。霧が晴れたとき、暴漢たちは地に倒れており、何が起きたのか理解できない女性は辺りを見回した後に逃げ帰った。
それを見届けたナイトは暗い路地裏の影から現れ、声に出したい気持ちをグッと抑えて心中でアルビオンに叫ぶ。
――これ以上、僕に何をしろと言うんだ!!
常闇の守護者と呼ばれ、黒き魔王と畏れられた少年は、孤独な夜をつめたい天空で過ごすのだった。
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