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促されたアリスは、決心がつかないまま部屋を出て食卓に向かっていた。
席に着き、取り皿に置かれた焼きたてのパンを千切るばかりで口に運ぼうとせず、その様子を見たエリックが心配して話しかける。
「失礼します。お嬢様、何か悩むことでも?」
「……あのね、今日の正午にお父様の知り合いが来るらしいの」
「はて? そのような知らせは初耳ですが……ポストにその旨の手紙がありましたかな?」
エリックが他の使用人に目配せをすると、皆、首を横に振る。
「勘違いではありませんか?」
「違うわ! えっと……そう! 昨日の深夜にお父様から電話がかかってきたの! 夜中にお手洗いに行ったら、偶然電話が鳴って……」
かなり苦しい言い分だということはアリス自身が理解しており、これはダメかと思ったが、エリックは深く考え込んだ後に手を打った。
「なるほど。そういうことでしたか。では、正午に出迎えの用意を致しましょう」
「あ、ありがとう! そう、そうなの! 失礼のないようにしてね」
「承知いたしました。では、その無数に千切ったパンを召し上がっていただけますか?」
「え?」
言い分を考えることで頭が一杯で、パンを千切っていることなどすっかり頭から抜けており、取り皿から溢れ出している一口大のパンを見たアリスは頬を真っ赤に染めて食べ始めた。
そして、流し込むようにコーンスープを飲み、口を拭いて朝食を終えて食卓から離れたとき、エリックが耳元で囁いた。
「今回だけですよ。後でちゃんと経緯を話してくださいね」
「っ!」
囁かれたアリスは驚いて背筋を伸ばし、そそくさと部屋に戻った。
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