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イギリス王国首都、ロンドン。
灰色の曇天から雪が舞うこの季節、都の中で最も大きな個人の住宅の中で、その少女は燃え盛る暖炉の炎を見つめていた。
パチパチと薪が弾ける音が耳に心地よく、炎を見つめる少女の目は輝いている。
胸には、大きな紅い宝石のペンダントが垂れていた。
「お嬢様! アリスお嬢様! お勉強の時間でございます」
執事エリック・ヴァンガードの声が聞こえたかと思うと、アリスは腰まで伸びた金色の髪を揺らしながら立ち上がり、すぐに暖炉の陰に隠れた。
部屋の扉が開いて黒いスーツを着た金髪オールバックの青年が入室し、ぐるりと辺りを見回すと、暖炉の陰から桜色のドレスの端が見え隠れしている。
エリックはフッと笑い、決して見つかるまいとほくそ笑んでいるアリスの肩を叩いた。
「お嬢様、かくれんぼですか?」
「っ!」
吃驚したアリスは思わず飛び退いて、暖炉の壁に後頭部を打ち付けた。
「いったぁい……驚かせないでよ!」
「も、申し訳ありません。しかし、勉強はしていただきますよ?」
「嫌よ! 数学なんて出来なくても生きていけるわ!」
「そうは申されましても、お嬢様は我が英国が誇る財閥ラインハルト家の御息女ですので」
「何が財閥よ! 当主がいない家なんて意味はないわ! まったく、ジャパンに行ったっきり連絡も寄越さないなんて、お父様は何を考えているのかしら……」
「旦那様の悪口はいけません。さあ、席に着いてください」
「むむぅ……」
渋々、アリスはエリックに従って勉強の席に着いた。執事は山ほどもある課題を彼女の前に差し出し、無数の溜息を吐きながら一つ一つ問題を解いていく。
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