手品とわたし

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そう、彼女は人間なのだ。つい忘れがちになるけど、歴とした人間の血が流れているのだ。 あの時に感じた噎せ返るような血の匂いも、ふとした時に見せる猛禽のような眼も、今は見る影も無い。咲夜も、ここしばらくで随分変わったということだ。 「――――そういえば」 ずっと気になっていたことがあった。あの後結局、訊けずじまいだったこと。 「はい?」 咲夜が小首を傾げる。うん、やっぱり犬っぽい。思わず撫でたくなる。こんなことを考えるあたり、私も随分と丸くなったようだ。 「あの時の、最後のナイフ。あれはいつ投げたの?」 「ああ、あれですか」 「私には、一本だけ投げてるようにしか見えなかった。でも、気が付いたときには二本だった」 「ミスディレクション、ですわ」 「や、そうじゃなくて」 仕掛けはもちろん知っている。手品における基本技術。注視されたくない場所から、相手の意識を逸らす技法だ。 「ふふ」 咲夜が小悪魔的な笑みを浮かべた。私はそれに首を傾げる。
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