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「かしこまりました」
女はやはり最後まで飄々としていた。
これからその端正な顔を恐怖に歪ませるのだと思うと、嗜虐心が疼いた。
狭い部屋だ。逃げる術などない。
じっくりといたぶり、存分に恐怖を与えてからその血を啜るとしよう。
「開始の合図はいかがいたしましょう」
「任せるよ」
確かコインを投げ、地面に着いた瞬間を始まりの合図とするのだったか。
動体視力で私に勝てると思っているのだろうか。
少なくとも人間は吸血鬼に敵わない。
相手がいかに優れた身体能力を有していたとして、それは覆らない。
「コインは持ち合わせておりませんので、トランプを代用させていただきます」
「トランプはあるのにコインはないの?」
「無一文でして」
「あははっ」
女は手馴れた操作でトランプの束をシャッフルし、その中から一枚を取り出した。
「おや」
そこには時計台にもたれかかる死神の絵が描かれていた。
見紛うことなきジョーカー。
「あらあら、幸先悪いわね」
「まったくですわ」
女は特に意に介した様子もなかった。
あのカードが何を暗示しているのか、私にはわからない。
本当に偶然だったのか、はたまた運命か。
どうでもよかった。どうせ結果は変わらないのだから。
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