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二人が飛び退いたのはほぼ同時。一瞬で10メートルほどの距離が離れた。
女はいつの間にどこからかナイフを取り出していた。
「あら、手品はもうおしまい?」
「これからですわ」
「来ないの?」
「レディーファーストがモットーですので」
「ならお言葉に甘えてっ」
先程のおよそ2倍の速度で駆ける。
相手が策を弄するならば、小細工など介入する余地のない、純粋な破壊でねじ伏せるのみ。
飛ぶように疾駆しながら、私は炎剣を創り出す。
―――――さあ、避けてみせろ。
女めがけて炎の大剣を薙ぎ払う。籠められた魔力が炎の塊となり、雨のように放出される。館は壊れこそしないものの、無事ではないだろう。が、知ったことか。
目の前は崩れた瓦礫で埋もれていた。そこにいた人影など、どこにも見当たらなかった。
「やりすぎたかしら」
「ええ、ボロボロですわ」
「あら」
振り向くと、無傷の女が涼しげに立っていた。ボロボロ、というのは館の状態か。
信じられない奴だ。ポンポンと埃を落とす仕草をしてみせるが、おそらくそんなもの、最初から付いていないだろう。
「まだ、本気を出さないのかしら」
「手品師ですから。こういったことには不慣れでして」
「その割には余裕そうね。何か策でもあるんじゃない?」
「滅相もない。ナイフが得意なだけのメイドですわ」
「そのナイフ捌きはいつ披露されるのかしら」
「まもなく、開演ですわ」
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