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公園に着くと、まだ彼の姿は見当たらなかった。
バッグから携帯電話を取り出すが着信履歴はない。
時計を見ると9時45分。
15分も早く来てしまった……。
なんだか浮かれている自分が恥ずかしくなり、いつもの丸太のテーブル席に腰掛けることにした。
さわさわと、暖かい風が髪をなでる。
(桜、散ってきたなぁ)
どのくらい景色を見ていただろう。
「坂月さん」
ガードレールを挟んだ車道から、自分を呼ぶ声がした。
振り向くと、白のスポーツセダンがハザードランプをつけて止まっている。
運転席には彼の姿。
「乗って」
内側から助手席のドアが開いたので、小さく頷き、助手席に乗り込んだ。
こちらがドアを閉めたのを確認してから、彼がゆっくりハンドルを切る。
車内という密室に二人きり。
シートの匂い。
カーオーディオから流れる静かな音楽。
薄手のジャケットに細身のジーンズという、先日とは違うカジュアルな服装の彼。
緊張が一気に押し寄せた。
彼のひとつひとつの動作が、なんだかくすぐったい。
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