8837人が本棚に入れています
本棚に追加
「浩太。お前には つまんない過去だろうけどな」
フッと力なく笑う。
浩太は先程の自分の失言を思い出した。
「俺だって忘れてたよ。……いや、ずっと記憶の奥底に閉じ込めて、思い出さないようにしていた」
忘れたいと思った。
なかったことにしようと、無理やり記憶を封印したのに。
「未歩のせいで嫌でも思い知らされた」
「!」
浩太が未歩のことを好きだと知った時、正悟の胸には罪悪感が生まれた。
この命を助けてくれたのは他でもない浩太だというのに。
その浩太の恋を、幸せを。
自分が奪ってしまうのだと思ったら吐きそうなほど苦しくなった。
「しばらく夢なんか見てなかったのに。でも未歩に会ってから、何度も何度もあの頃の夢を見るんだ」
殴られた痛み。
養母の唇の感触。
体のすべてを停止させるほどの恐怖感。
強制的に与えられる快楽への屈辱。
すべてが鮮明に甦る。
だけど、浩太は助けに来ない。
「……まるで浩太を裏切るなと言われているようで……怖かった……」
「……正悟」
「未歩といるのが怖くなった。15年も前の事を、これ以上思い出したくなかった。だから別れた。浩太のためだけじゃない」
最初のコメントを投稿しよう!