16.衝突

35/38
前へ
/671ページ
次へ
  「浩太。お前には つまんない過去だろうけどな」 フッと力なく笑う。 浩太は先程の自分の失言を思い出した。 「俺だって忘れてたよ。……いや、ずっと記憶の奥底に閉じ込めて、思い出さないようにしていた」 忘れたいと思った。 なかったことにしようと、無理やり記憶を封印したのに。 「未歩のせいで嫌でも思い知らされた」 「!」 浩太が未歩のことを好きだと知った時、正悟の胸には罪悪感が生まれた。 この命を助けてくれたのは他でもない浩太だというのに。 その浩太の恋を、幸せを。 自分が奪ってしまうのだと思ったら吐きそうなほど苦しくなった。 「しばらく夢なんか見てなかったのに。でも未歩に会ってから、何度も何度もあの頃の夢を見るんだ」 殴られた痛み。 養母の唇の感触。 体のすべてを停止させるほどの恐怖感。 強制的に与えられる快楽への屈辱。 すべてが鮮明に甦る。 だけど、浩太は助けに来ない。 「……まるで浩太を裏切るなと言われているようで……怖かった……」 「……正悟」 「未歩といるのが怖くなった。15年も前の事を、これ以上思い出したくなかった。だから別れた。浩太のためだけじゃない」  
/671ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8837人が本棚に入れています
本棚に追加