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顔を背けたままの正悟と浩太は、互いに何を言うでもなく、そこに座り込んでいた。
どれほどの間、部屋が静寂に包まれていたのだろう。
「……浩太」
その沈黙を破ったのは未歩だった。
「浩太、帰ろう」
歩み寄り、呆然とする浩太の腕を取る。
すると彼はその腕を力なく振りほどき、
「ごめん。一人にさせてくれ」
と言って部屋を出て行った。
浩太が閉めたドアの音だけが、やたら大きく部屋に響いた。
未歩は床に落ちているジッポライターを拾いあげ、正悟へと差し出した。
「……」
受け取らずにそれを眺める正悟の腕を取り、彼の手の平に乗せる。
「返すね」
ニッコリ笑いかけても、彼は目を合わせない。
当たり前だ。
自分の存在が、彼を苦しめているのだから。
「…………さようなら」
そう言って、自分も部屋を後にした。
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