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エンドロールも終わり、場内は明るさを取り戻していた。
彼が「出ようか」と立ち上がって、こちらを見下ろすと。
「……顔」
と言いながら、その顔を硬直させた。
うん、予想はできてた。
なぜなら自分の顔が涙でボロボロだったから。
「か、感動しちゃって」
「…………」
と言いながらも映画の世界観からまだ抜け出せず、ボロボロと涙が溢れでる。
「ご、ごめんなさい」
慌てて立ち上がろうとした時、
「……びっくりした」
と、静かに息を吐く音がおりてきた。
同時に彼の手がのびてきて。
その指がそっと頬の涙に触れた。
「……っ」
自分の頬とは違う彼の指の温度に、一気に現実へ引き戻される。
そして急激に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「お、お手洗い行ってきます」
「……ごゆっくり」
彼はなんでもなさそうに、その指をおろした。
廊下の女子トイレで鏡の前に立ち、自分の顔を確認する。
アイメイクがボロボロで頬まで伝わった涙の跡は真っ黒だ。
これはひどい。
急いでクレンジングシートで拭き取り、メイクを直した。
どくどくと、全身の血が躍動するのを感じながら。
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