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ロビーに向かうと、彼は電話をしているようだった。
こちらに気づいて「ゴメン」のポーズをするので、笑顔で返した。
(友達、かな)
自分は耳が良いほうだ。
電話の向こうから気さくに話す男性の声が聞こえていた。
(あれ)
その声に、なぜか違和感を知る。
けれどそれも一瞬で。
気のせいか、と頭のゴミ箱に捨てた。
「わかったわかった、また今度聞いてやるよ。いま出先だから、またな」
やがて彼が軽くあしらうように電話を切ろうとすると、
『デートかよ~~っ』
という叫びにも似た声が電話の向こうから響き、
……プツッ。
と、彼は無言で電話を切った。
「……」
「……」
照れ臭いような、気まずいような、この空気。
どうしてくれよう。
「ゴメンな」
「い、いえ! お友達ですか? ゆっくり話してて良かったのに」
「いや、すっげーくだらない用件だから」
そう言いながら、彼は携帯電話をしまった。
(正悟さんの友達って、どんなタイプなんだろう)
それから、どちらかが言い出すでもなく、二人は駐車場へと向かった。
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