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そして今度は自分の番になった。
食事はもう済んで、デザートを待ちながら。
「未歩ちゃんは、なんで音大に進もうと思ったの。やっぱプロ目指してるとか?」
と尋ねられたけれど。
自分は曖昧に首を傾げた。
「……気がついたら入学してたんです」
「親に無理やり行かされてるってこと?」
「いえいえ」
と、慌てて手を振る。
小さな頃からピアノを弾くのが当たり前だった。
素直に楽しかったし、両親が褒めてくれるのも悪い気がしなかった。
そんな単純な思考のままピアノの世界に没頭していて、
いつしかコンクールで入賞するのが当然になっていた。
「そのたびに、次はもっとレベルの高い曲を……もっと、もっとって。言われ続けるうちに、楽しいって気持ちより、義務感のほうが強くなってました」
「……」
『未歩ならできるよ』
『才能がある』
『逸材だ』
そう言われるたびに、完璧に弾かなくてはいけないような気になっていた。
周囲のプレッシャーに応えるために、周囲をがっかりさせないように。
失敗が怖くなっていた。
「でも、17才の時にプロデビューしないかっていうお誘いがあったんです」
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