3.急接近

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  当然、周囲は『プロになるだろう』と期待をした。 「でも、その時パパが言ってくれたんです」 『未歩はどうしたいんだい?』 『もう自分の望むように生きていいんだよ』 と。   「でも私自身、どうしたいのかわからなくて。だって、今まで自分で決めたことなんて何もなかったから」 その時に初めて、自分の人生について真剣に考えたのだ。 なにひとつ不自由なく暮らしてきた。 親の優しさに甘えて、自分のことだというのに、選択も責任も親任せだった。 「プロの話は断りました。でも将来的に自分がどうしたいかとか、もしピアノを捨てたらどうするのかとか、答えなんてでなくて」 結局、そのまま音楽大学に進むことになってしまったのだ。 「今でも時々不安になるんです。このままやるべき事が見つからなかったらどうしようって」 「……」 「でも、一人で決めるのって怖いですね。失敗したらどうしようって、足踏みばっかりしちゃって。はは。自立、したいです」 グラスについた水滴を指でなぞりながら、そう言い終えた。  
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