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重たい沈黙になりそうで、心に焦りが生じた時。
彼は穏やかな口調で語り始めた。
「そんなに、あせる必要はないんじゃないかな」
「……」
「若い時に、将来のことを明確に考えてるヤツなんて いないと思うよ」
誰もが自分が望む職業とはなんなのか、選んだ道はこれで正しいのか。
悩み、迷い、不安を抱いて選択の時が訪れるのを待つのだ。
と、彼は言う。
「たしかに失敗が怖くて、尻込みしてしまう気持ちはわかるけど」
「……はい」
「でも、道を間違ったっていつでも修正できるよ。回り道になってもいいから、自分が今できることを一生懸命やればいいんじゃないかな」
「……」
すとん、と。
彼の言葉が胸に落ちて。
じんわりと心の奥に染み込んでいく。
「……はい」
なんだか涙がでそうなくらい、救われた。
「ありがとうございます」
「ていうか、俺なんか給料目当てで今の会社入って、もう7年だからな。偉そうなこと言えねーや」
「ふふ」
泣きそうな自分に気づいたのか、彼は慌てて茶化した。
彼のおかげでまた和やかな時間が戻って、そのあとは楽しい会話が続いた。
なぜだろう、出会ったばかりの彼に、こんな重い話をしてしまったのは。
なぜだろう、彼の言葉のひとつひとつが自分の胸を熱くさせるのは。
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