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次の瞬間、彼はふっと静かに微笑んで、
「また連絡するよ」
とだけ言った。
かくかくと頷いて、まだ高鳴る胸を落ち着かせながら助手席からおりた。
その時。
「未歩ちゃん」
「え」
すぐに助手席の窓が開き、
「これあげる」
と、彼がある物を投げてきた。
「ええっ?」
慌てて受け取ると、それは中身が数本入った煙草の箱だった。箱の中にはシルバーのジッポライターも入っている。
「これ…」
「完ぺきに禁煙できたら、約束守ってな」
そう言うと彼は運転席に座り直し、車を発進させた。
(――――聞こえてた!)
昼食での会話が甦ると同時に、
急速に鼓動が速まっていく。
走り去った車が見えなくなるまで、ただ……ただ、そこに立ち尽くしていた。
「……キスされるかと思った」
部屋に戻るなり、勢いよくベッドに倒れこむ。
帰り際の車内で、真っ直ぐに自分を見つめていた彼の瞳を思い出した。
「出会ったばかりなのに……」
まだ、胸のドキドキはおさまりそうもない。
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