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「ごめんなさい」
「え、早っ……」
未歩が深々と頭を下げると、目の前の男は顔をひきつらせて言った。
「なんで? 他に好きなやつでもいるの?」
「違います。でも、誰とも付き合う気になれないっていうか……」
あなたの事よく知らないし。
と付け加えて未歩はもう一度頭をさげた。
「だから、ごめんなさい」
相手から再び言葉を発せられるその前に、踵を返し走り去る。
彼女は坂月 未歩(さかつき みほ)。
19歳、音楽大学の2年生だ。
父は大きな会社の社長であり、いくつかマンションも経営している。
小学校、中学校、高校とエスカレーター式の女子校に通った未歩は、いわゆるお嬢様である。
小さな頃から笑顔が絶えず、おっとりしているものの明るい性格だったため、様々なタイプの友人にも恵まれていた。
そんな彼女も、この夏には二十歳になる。
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