4.恋

4/17
8830人が本棚に入れています
本棚に追加
/671ページ
  時子のアパートを出ると、春の空は夕暮れが訪れ、紫色に染まっていた。 「未歩ちゃん、送るよ」 「いえ。そこに地下鉄ありますから」 「いいから乗って」 スポーツタイプの青い車まで歩き、浩太は助手席のドアを開けた。 「じゃ、途中まで……」 躊躇いながらも、結局送ってもらう事になるのだった。 走行中、浩太がしきりに話を振ってきた。 テンポよく続く会話に笑顔で相槌をうちながらも、頭の片隅にはどうしてもあの人が浮かぶ。 (桜、そろそろ散っちゃうなぁ) 並木道に咲き誇る、美しい桜の木々も、4月も中旬にさしかかった今、ちらほら散りかけている。 やがてその桜並木が見えてきた。 「ここでいいです、近くだから」 「そう?」 「はい、ありがとうございました」 と言って車を止めてもらう。 「未歩ちゃん。よかったらアドレス聞いてもいい?」 「……。あ、はい」 断る理由もないので、番号とアドレスを交換すると、嬉しそうに微笑みながら、浩太は去って行った。  
/671ページ

最初のコメントを投稿しよう!