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暗闇の中をライトで照らし、走り続ける車は、いつもと違って小さな静寂が守られていた。
不思議とその沈黙が心地良い。
ちらりと運転中の横顔を見つめた。
赤信号で車が停車する。
視線に気づいたのか、彼もこちらに視線をうつした。
とくん……と。
胸の音がひとつ。
暗がりの車内を、外からこぼれる明かりが照らす。
影を落とす彼の顔がふわりと微笑んだあと、ゆらりとこちらに揺れて。
未歩はキュッと目を閉じた。
……ポンッ
「っ?」
突然の、頭の上の感触に。
驚いて目を開けると、彼の手が自分の前髪を撫でていた。
互いが視線を絡めて、わずか数秒。
彼はその手をハンドルに戻すと、車を発進させた。
信号は青。
しだいに頬の温度が上がっていくのを感じ、それを隠すために外の景色を眺め続けた。
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