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着いた先は、静かな港だった。
海の音は静かで、遠くのほうで船の汽笛が聞こえる。
辺りは真っ暗で、他に車や人影は見当たらなかった。
「ここ俺のお気に入りでさ、よく一人で考え事する時に来るんだ。デート向けじゃないけどな」
と言いながら彼が車を降りたので、自分もそれに続いた。
夜風は肌寒く、冷たい空気が腕をまとう。
「まだ寒かったな。夏になると気持ちいいんだけど」
「でも、静かでいい所ですね」
ザザ…………
ザザ……
静かな波の音が心地良い。
目を閉じて、波のリズムを聞いていると…。
ふと、人の動く気配を感じて目を開けた。
見上げれば、彼の優しい笑顔。
彼の手がおそるおそる伸びてきた。
頬に優しく触れた手は大きくて、だけど温かい。
受け入れるように目を閉じて、その手に自分の手を重ねる。
それを合図に、彼のもう片方の手のひらが自分の背中を包み込んだ。
頬に置かれた手はするりと後ろに移動して、後頭部をそのまま優しく撫でる。
その流れるような動きに、心臓はいよいよ騒がしくなった。
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