4.恋

13/17
前へ
/671ページ
次へ
  着いた先は、静かな港だった。 海の音は静かで、遠くのほうで船の汽笛が聞こえる。 辺りは真っ暗で、他に車や人影は見当たらなかった。 「ここ俺のお気に入りでさ、よく一人で考え事する時に来るんだ。デート向けじゃないけどな」 と言いながら彼が車を降りたので、自分もそれに続いた。 夜風は肌寒く、冷たい空気が腕をまとう。 「まだ寒かったな。夏になると気持ちいいんだけど」 「でも、静かでいい所ですね」 ザザ………… ザザ…… 静かな波の音が心地良い。 目を閉じて、波のリズムを聞いていると…。 ふと、人の動く気配を感じて目を開けた。 見上げれば、彼の優しい笑顔。 彼の手がおそるおそる伸びてきた。 頬に優しく触れた手は大きくて、だけど温かい。 受け入れるように目を閉じて、その手に自分の手を重ねる。 それを合図に、彼のもう片方の手のひらが自分の背中を包み込んだ。 頬に置かれた手はするりと後ろに移動して、後頭部をそのまま優しく撫でる。 その流れるような動きに、心臓はいよいよ騒がしくなった。  
/671ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8836人が本棚に入れています
本棚に追加