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車が無事にアパートに到着した。
別れは惜しいが、明日ももちろん平日だ。
「遅くまでごめんな。また連絡するよ」
「はい、……それじゃ」
名残惜しくも素直に降りようと、ドアの取っ手に手をかけた時だった。
「!」
右側に影ができたと思ったら、
彼の手が、ドアノブにある自分の手に重なった。
振り向いた先には、至近距離にある彼の顔。
「……」
「……」
見つめあって数秒。
伏せられた彼の目がとらえたのは、
自分の唇。
「……」
思わず目を閉じた。
ちゅっ。
「!?」
おとされた柔らかい感覚は、おでこにだった。
「また今度な」
「……っ」
いたずらを成功させた子どものように、彼がニッと笑うので。
あいた口が塞がらない。
けれどよしよし、と頭を撫でてくれたその手が優しくて、大切にされているのだと思った。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
彼の車が見えなくなるまで、ずっとずっと立ち尽くしていた。
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