退屈の理由

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まだ春も浅いある日、突如現れた仙人を自称する老人が、エイシンのもつ仙骨(仙人になることができる体質)を認めて、自分の弟子にならないかと誘ったという。 大喜びで話を受けたエイシンだが、弟子入りするためにある条件をこなさなければならない。 それこそが、今エイシンの目の前にある石に“傷をつける"というものだった。 石は大人が三人がかりでやっと抱えられるぐらいの大きさがあり、表面は滑らかで乳白色に輝き、完全な球体をしている。 それぐらい造作もないと、たかをくくっていたエイシンだったが、刃物で切りつけてもかすり傷ひとつつかなかった。 鋸でひいても、やすりをかけても変化はない。 力任せが駄目ならと、わざわざ油をかけて焼いた後に冷水をかけて叩き割ろうとしたが、これまた手応えなし。 しまいには、無理を言って手にいれた火薬で爆破してみたが、ひびひとつ入らずに終わった。 成果が得られないまま月日は流れ、エイシンはとりつかれたように毎日石を相手に、徒労の戦いを続けていた。 そして今に至る。
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