兵隊さんの靴

2/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
広場の片隅に、靴磨きの少女がいた。 ゴミ箱からかき集めたぼろぼろの新聞紙を敷いて、そこにこぢんまりと膝を抱えて座っていた。その目の前には、精一杯に磨いた足のぐらぐらと揺れる椅子を置いて、客の椅子としている。 広場は静かだった。もともとそこまで大きな広場ではないし、何しろ若者は学校にいる時間だ。穏やかな曇り空も相まって、余計にそう思えた。 銃を腰に携えた男がやって来た。 銃を携帯し、赤い兵隊の服を着ているので、国軍か盗人の類のどちらかだろう。肩のマークを見ると、服の持ち主が偉い人らしいことがわかる。 「頼む」 静かに言って、男は椅子に座る。威風堂々とした面持ちだ。 靴磨きは営業スマイルをつくって丁寧に肯いた。安い布に安い洗剤を馴染ませ、差し出された靴を磨く。 道具はたしかに安物だが、靴磨きの腕には自信があった。何せ幼少の頃から十年ほど、毎日毎日靴を磨いて生きてきたのだから。何のため、誰のためともなく、ただ漠然と食い扶持を稼ぐためにそうしてきた。だから、彼女には生き甲斐もないし、そんなことを考える余裕すらなかった。 見上げると、男が興味深そうに靴磨きの様子を観察していた。 「明日から戦争なんだ、しっかり頼むぞ」 「はあ、そうなんですか」 戦争に出ると言うことは、やはり兵士らしい。適当に頷いて、丁寧に磨く。 隣国と交戦中だと聞いたが、明日から彼の出番だと言うことだろう。可哀想に、と靴磨きは思ったが、口には出さなかった。靴磨きと兵士では価値観が根本的に違うのだろうから。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!