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「今回の戦いは重要だからな」兵士は真剣に言った。「隣国なだけに、負ければ飲み込まれやすい。それに国は領土を欲してる。土地は多い方がいいだろう」
靴磨きは頷いた。底辺階級である靴磨きには、もともと家などないから土地など関係ないのだ。誰が支配しようと底辺には変わらないし、こうして上流階級に媚び諂うことも変わらないのだろう。
靴磨きにとっては、どうでもいい話だった。
男は首もとのボタンを一つ開け、胸元に新鮮な空気を入れようとし、顔をしかめた。
「しかし暑いな」
「ええ、夏ですからね」
昨年がどうだったかは覚えていないが、今年の夏は渇いていた。
「こんなにも暑いというに雨が降らないからな。この国には王川があるから水が枯渇することはないが、隣国にはないからな。それも戦争の理由なのだろうが……」
「水くらい、分けてあげられないんですか?」
靴磨きは顔を上げずに訊く。
「んん、分けられないこともないのだろうがな……何分王川から隣国の首都圏までは時間がかかるし、経費もかかる。そうなるとこちらは、その分を向こうに払ってもらいたくなるわけだからな。それなら戦争した方が安上がりなのだろう」
靴磨きに金銭的な損得勘定はできないので、兵士の話はよくわからなかった。
「隣国の民の全てに賄える分だけ水を運ぶとすれば、人員もいるし、食料だって大量にいる。長旅になるからな。逆に隣国が貰いに来たところで同じだ。こちらは礼金だって請求する。水なんて大量に必要となるものは、その都度いただくよりも奪ってしまった方がいいのだよ」
「?」
靴磨きは首を傾げるが、下を向いていたからわからなかったのだろう、兵士は構わず続ける。
「そして、これは理由の一つでしかないからな。この戦争は、政治的なものだ。俺達下っ端には、到底わかり得ないもんさ」
彼は自嘲的に言ったが、兵士で下っ端と言うのなら、野良の靴磨きは一体何なのだろうか。
「……部外者、かな」
「ん、何だ」
「いえ、何でもありません」
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