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「で、ヘアスタイルどーすんの?」
口の悪い店長が再び鏡ごしで向かい合った俺に聞いて……っておい! アンタが“決めてやるから”って言ったんだろ?
と、言いたいところだが、ここは穏便に。
「お、お任せします」
「あっそ。んじゃあ、まずはそのガシガシになった髪を切ってからシャンプーとトリストーンしよっか」
「は? トリ、トリストーンて?」
知らない俺が悪いのか? それとも質問ばかりしてる俺が悪いのか?
ただでさえ面倒臭さたっぷりの表情をしていた店長が、更に肩を落として露骨にうんざりする。
夢で何度も見た美容室は、こんな店だったか?
俺の中で不安が込み上げる。
「誕生石を粉末にして成分量を多く入れたトリートメントだよっ。もちろんアンタのねっ」
へえ、なるほど。しかしそんなのが髪にいいのか? いや、もうこれ以上聞くのは止めておこう。こっちも面倒だ。
「しっかし……アンタ、昔っから顔に出るクセ変わんないねぇ。ほら、燕が案内するから先にウェットしてもらいな」
え? 昔から?
じ、じゃあもしかして、やっぱりこの最低な女店長が……?
そんな疑問符を頭の上に掲げながらも、俺は燕さんに導かれながらシャンプー台の椅子に腰を降ろす。
彼女はにっこりと極上の笑みを浮かべながら言った。
「じゃ、倒しますねー」
「ぐふっ!!」
突然の事だった。
腹部への強い殴打。笑顔を崩さず彼女の拳が飛んできたが何て力なんだ!? いやそれ以前に「倒す」の意味が違うだろっ!?
「はい、頭上げてくださーい」
当然腹に食らったら衝撃で俯いていた俺の額に第二の衝撃!
ガンッという音と共に後頭部の激しい痛みっ。
い、一体何が起きた!? 俺は何をされるんだっ!?
そう思ったのが最後の意識。
天井を仰ぐ視界には、もはやフェードアウトしていくオレンジ色のライトだけが俺を支配していた。
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