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『高梨くん、君はどうすれば業績を伸ばせると思う?』
「は? 課長?」
『“は?”じゃないだろ。今じゃ俺達が大手化粧品メーカーの第一線を走ってるとはいえ、新しい契約を結ぶのは情勢的に……もう難しい。事業展開に限界が来ているんだ。だから頭を痛めてるっていうのに、その渦中でお前は全く業績を伸ばせないまま安穏と過ごしてる。おかしいと思わないか?』
ああ、俺はさっき夢を見てたのか。これが現実。辺りをよく見れば、会社ん中じゃないか。課長を目の前にして、立ったまま寝ぼけてたんだな。
ああ、もううんざりだ。
いつも言われる小言というか嫌がらせというか……大体このあとは、同期との差をこれでもかと言われるお決まりパターンなんだ。
背中に浴びる嘲笑を、あんたは知らない。
『高梨くん。君は自分を知らなさすぎていると思わないか?』
『課長の仰るとお……』
『何がだ?』
え?
何か変だな……いや、何が? って言われても……あっ、そっか。今回はとうとう最終宣告されるのかな。まあいいや。
俺にはもう無理だ。
『ふぅ、高梨くん……私は悲しいよ。君は結局何も分かっちゃいないし成長もない』
はいはい。
どうせそうですよ。
『君はどうしてそんな正直に顔に出るのを生かさないんだ?』
――え?
生かす……って?
「ハイッ! お疲れさまでしたーっ」
その声が目覚まし時計かのように、俺は何かから目を醒ました。
いや待てよ?
という事は……さっき会社に居たのが夢なのか? だけどすごく現実味があったんだけどなぁ。
でも今、確かに頭上で放たれた明るい女の声で目を醒ましたのは否定出来ない。そして俺は我に返った。
そうだ。此処は「夢の狭間の美容室」だ。俺は夕方までこの店を探し、奇跡的に出会う事ができたはものの、いろいろ幻滅した。
過度の期待は持たない事だな……挙げ句に笑顔で腹に打撃を受け、アッパーされたんだから。
「俺……気絶してました?」
「ハイッ! ちゃんと寝てましたよ? 私の一発効きましたねぇ? じゃ、まずは店長にカットしてもらいましょうね。こちらにどうぞぉ」
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