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燕さんに案内されるがまま、あの口悪い店長の待つセット面へ……が、俺はゾッとした。
いや、これが理想なんだけど……だけど……
「あの、燕さん。あの……人……は、さっきと同じ?」
――店長ですか?
と、俺は聞きたかった。だが指さしてしまった手前、相手に聞こえちゃ悪いような気がして語尾が思わず小さくなる。
だって……だって、あの無愛想で毒舌店長がとびきりの笑顔なんだぜっ!?
「何言ってんですか。アレは営業用スマイルですよ!」
……ですよね。
妙に納得したけど、もう正体バレてんのにそれでいいのか?
「さっ、高梨様こちらにどうぞ」
「え? なんで俺の名前……」
まだ名乗ってもいないのにさりげなく呼ばれた事が、馴染み深さを感じさせる反面、まだ俺にはピンと来る決定打がない。
「わたくし、店長ですよ? 貴方が小さい頃からの担当者です。高梨……光司さん、思い出せませんか?」
いやその前に俺は、あの毒舌店長は何処へ行ったんだってぐらい素晴らしいアンタに衝撃喰らったままなんだよ。
聡明な爽やかで気品さえ溢れ出る笑顔が、今の俺には不気味です。
「……す、すみません。今はあまり記憶が……」
取り敢えず俺はそう言いながら通されたセット面の椅子に腰を降ろす。鏡ごしに見ても、何となくシチュエーションは浮かぶけど、さっきの毒舌店長のインパクトが抜けきらない。
と、鏡に映る店長さんが再び顔つきを変えた。
「つまんねぇ奴だねー。大人になって腐っちまってさぁ。だけど……まあ顔に出る習性は変わらないって事はまだ可能性あんのかもねー」
顔に……出る。
さっきの夢ん中にも出てきた言葉。俺の心情って、他人には丸わかりって事か。
ああ、やっぱ最悪だな俺。社会で通用しないわけだ。
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