46人が本棚に入れています
本棚に追加
覚えているのは目覚めの爽快感と、俺を柔らかい笑顔で「いらっしゃいませ」と迎える二人のスタッフさんと、その店の外観だけ。場所の特定が出来るのも、夢の中で俺自身がそこまで歩いていくのを覚えているからだ。それが唯一の道しるべだった。
――あそこへ行けば実在するのかも。いつか行ってみよう、行ってみたい、と。
「ハァ。俺、何やってんだろ」
最近見なくなってしまったから。こんなに悩んでたりするのにっ……夢を、見なくなってしまったから。
――不眠症。
総じて皆は言うが、そんな一言で済む問題じゃないんだ。
大学を卒業した俺は、この不況期の中で運よく就職出来た。しかも大手会社だ。勿論、喜ばなきゃいけない事だって分かってる。同じ大卒でも雇用が難しいと言われるこのご時世に、確かに俺は恵まれてるさ。ああ、分かってる。頭では分かってるんだよ。
だけど、だけど……だけどさぁっ!
俺は無能なのか?
それとも周りが優秀なのか?
もう三年も経つのに営業成績は上がらない。提出した企画案書類は即効でゴミ箱行き。書類作成さえもダメ出しばかりで失敗の連続。たまに上手くいったからって上司に褒められたって、俺には慰めの言葉にしか聞こえないんだよっ!
同期の連中はたったの二年しか経ってない頃に企画案は通るし、新入社員が入って後輩が出来たと喜ぶし、しかも皆彼女いるくせに合コンとか……っ!
なのに、なのに俺は……っ!
最初のコメントを投稿しよう!