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俺は浮き足立ちながらも恐る恐る店の入口に立った。彼女は勢いよく扉を開けながら迎えてくれたその時、奥からもう一人の眼鏡をかけた男性が現れ、優しい笑顔で「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。
俺は単純に嬉しかった。不思議な感覚ではあるけど、ずっと探していた夢の形が、リアルに存在感を持って目の前にあるんだ。
もう夢だろうが幻覚だろうが何だっていい!
彼女は、中のスタッフに知らせようと息を吸い込みながら室内を振り向いた。
ところがだ。
笑顔で屈託なく俺を迎える彼を見た途端、突然悲鳴の如く奇声をあげたから俺まで情けなく「ひぃっ」と叫んでしまった。
「ぎぃゃやああぁぁーっ!! あんた私のチョコ食べたでしょーっ!?」
「えっ!? なぁに言ってんだかなぁ……は、ははは。せっかくお客さん来てんのにお前さーぁ、ちゃんと仕事しろよー」
「はあぁあ? 人が大事にしてて“さあ、これから食べよっ”て言ってたもんを物欲しげに見てたのも知ってんだからねっ! 勝手につまみ食いして偉そうな事言ってんじゃないわよ!」
「おいおい、随分な言いがかりだなぁ。一体何だっていきなり? 何の証拠があって言ってんだよ!?」
……お、俺の存在置き去りですか?
あは……しかも二人のイメージが……。
「鏡見てみなさいよっ」
たった一言冷たく言われた眼鏡の男性は、美容室なら困らない程の鏡を背中にして一旦固まった。かと思ったら焦った様子でその鏡を振り返る。
うん、どうにも言い訳できないだろうね。
彼の口元にはしっかりチョコの溶けた一部が……。
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