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眉を吊り上げた彼女は俺に振り向き、眼鏡の彼を指差しながら思いきり詰め寄ってきた。
「ねえっ! お客さんもあの人ヒドイと思いません?」
「……い、いやあ……あの」
こんな時になんて応えりゃいいんだ。
けど、こんな感じだったか?
……いやぁ、全然違うじゃねーかっ!!
俺の中のイメージが一気に崩れるこの虚しさ。いやまだ分からない。たまたまのアクシデントなんだから。子供の頃からの――っえ、うわわっ!?
その瞬間、建物が小刻みに揺れた。いや、空間そのものが揺れたのか?
なのに二人とも平然として……ああ、もうなんで俺だけあたふたしなきゃなんないんだよ。何か恥ずかしくなってきた。
「ほいほいっ! せっかくこの夕刻にお客さん来てんのにうるせーよぉ?」
突然、奧から現れた口の悪い女性。短い前下がりのシャープなボブヘアは紫に染まる葡萄酒のような色。気の強そうな目鼻立ちのハッキリしたその表情は、どう見ても愛想の無い表情で俺に「いらっしゃいまし」と言う。
ん? 聞き間違いか?
しかし彼女はまた繰り返す。
「いらっしゃいましぃー。とっとと座ってちょーだい」
「は、え? 俺ですか?」
「あんた以外誰がいんだよ。お客さんでしょーが」
愕然としたのは言うまでもない。
「店長、もっと優しくしてあげて下さいよ。それより桐生くんが私のチョコ――」
「あー……いんじゃね? どうせ減るもんなんだしっ」
「ですよねー、店長よく分かってらっしゃる。燕さん、それよりほら、早く彼を案内してやれよ」
「っく。ハイハイ分かりました!! じゃ、すみませんお客さんどうぞー」
……俺、やっぱ何か間違ったとこに来たかも。
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