Dear

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   * * * 「そうそう……それで最後の日に写真を撮る事になったんだ」 ルエルはなつかしそうに目を細める。 小さな写真立ての中に収まっている家族はとても幸せな空気に溢れている。 「お師匠様が撮ってくれる事になったけど、お父さん緊張して固まってて……」 家族写真も何年ぶりの撮影だった。緊張した父親は険しい顔で固まってしまい、それに気付いた母親が笑いを堪える。 後は連鎖的に兄・ルエルも笑ってしまい、ようやく撮影出来たのがこの一枚だった。 “一年事に写真撮るか?” そう問いかけるヴィオラにルエルは首を横に振る。一枚あればもう忘れる事は無い、そう告げるルエルにヴィオラは豪快に笑って頭を撫でた。 「早いな……もうこんなに経ったんだ」 ルエルは写真立てをそっと戻す。それから暫くたった頃、ルエルもヴィオラ邸に住む事になった。誰かが家にいる方が安心だからと説得されたのだ。 掃除をしに行く時や、誰かが家に帰って来る時は元の家に戻っている。 変わった事がもう一つ有る。ルエルも仕事を始め、出迎え・送迎が出来ない時がある。そういう時は正方形のメモに伝言を残す事にした。 それがこの“体調を崩すなよ。いってきます”のメモだった。 「ルルー、スコーンが焼き上がったから休憩しましょう」 「今、行く!」 大切なモノを入れておく箱にメモをしまう。ご機嫌に階段を降りるルエル。 スコーンに気を取られ忘れているが、散らかった資料はそのままになっている。 数十分後。開けっ放しの窓で洋紙が飛び、本当に強盗が入ったような光景になるのだった。
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