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とある昼下がり、ショーウィンドウに並ぶケーキを眺める一人の青年。
店自体はこじんまりとしているがその腕は確かで、わざわざ遠方から食べに来る客も多い。
真っ赤なイチゴが宝石のように飾られるショートケーキや、こんがりとした焼き色のパイ。
独特の甘い香りが漂い、由梨はウットリと目を細める。
「……ねぇ! あのケーキ眺めてる人、すっごい綺麗じゃない?」
テラスでケーキを食べていた女性が男性の袖を引っ張る。声を潜めているようだが、興奮しているせいか丸聞こえであった。
「アイツ男?女?」
男性は怪訝な表情を浮かべてコーヒーを一口含む。
「さっき横顔が見えたけど横顔も綺麗~」
声のする方へゆっくり振り返る。赤い着物がふわりと舞い、クスッと上品な笑みを溢す。
馬鹿にしたモノでは無く、上品な貴婦人のように優雅な微笑。
興味深々の女性だけで無く、男性も顔を赤面させ、ぽかんと大口を開けて固まっていた。
「あっはは! あのカップル完全に惚れたね。近所の奥様方だけじゃなくて、若いカップルまで落とすとは……ハーレムでも作るつもりかい?」
このケーキ屋は夫婦で営んでいて、奥さんはレジを担当している。
娘が一人いるらしいが、まだ遭遇した事は無い。
「んふふ、悪くない提案ね」
「あんたみたいな男がいると、女に生まれた自分が悲しく思えてくるね」
「あら? 今でも充分魅力的よぉ?きめ細かい肌なんて見習いたいくらい」
「はいはい、ありがと」
奥さんは軽く流しつつ、紙の小箱を手渡す。
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