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「災難、ねぇ……」
顎に手をあてるのは由梨の考える時の癖。
おねぇ言葉で話してはいるが、由梨は身も心も「男」。
同性と恋仲になる気など微塵も無いのだが、何処で間違ったのか「そっち系の人」と認識されている。
抱きつき魔の彼女にとって、特別に意識されていないからこそ今の関係が保たれているのだから複雑だ。
「災難なのは私よ……」
“はぁ……”と重いため息をもらした所で由梨の目つきが変わる。全身の神経が一点に集中する。
そこは元とは言え、タナトスのスキア。不穏な空気を感じると瞬時にスイッチが入る。
(殺気は感じられないし、気配も全然消せてない……とんだ素人さんね)
どうしたものかと悩んだ末に屋敷と逆の方向に足を向ける。速くも無く、遅くも無い自然な足取りで進む。一向に付いてくる気配は無いが、見られている事はハッキリ分かる。
由梨が離れると何かが走る音が聞こえ、また静かになる。
何処に潜んでいるか予想はついているが、あえて振り返りはしない。
(どうやら……付けられてるのは私で間違いないようね)
屋敷の方向とは違うがこの町の造りは大体把握している。
由梨が右に左に曲がる。相手も離れまいと必死のようだが、途中何かに衝突する音が聞こえる。
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