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速さは変わらないが右往左往してグルグル回り続けていた。
由梨は涼しい顔のままだが、後を付けている相手は疲労しているようだった。よく耳を澄ますと荒い息遣いが聞こえる。
(そろそろ鬼ごっこも終わりね)
真っ白な壁が覆う曲がり角を曲がった所で由梨は足を止める。おもむろに右腕を上げ、軽く小突くように拳を突き出す。
由梨には誰かが見えているわけでは無い。
一枚の絵の中にのめり込むように由梨の右手が消え、手首まで消えた所で息を殺す。
「――――ッ!」
後を付けていた人物は曲がった瞬間に息をのむ。
由梨の手には刀が握られている。首に突き付けられていた刀は、あと数㎜で首を貫ける所まで迫っていた。
「ふふっ、首があって良かったわね」
由梨はニコリと涼しげな微笑を浮かべ刀を離す。
糸が切れた人形のように青年はヘナヘナと尻餅をつく。滝のように汗が流れ、黒縁の眼鏡がズレる。
刀を何も無い場所に押し込むと刃先から消えて行く。完全に刀が呑み込まれた所で手を離す。
由梨は異空間に愛刀『緋雪』を置いていて、必要になればいつでも取り出せるようになっている。
出し入れが出来るのが刀だけの所から、緋雪に何らかの細工が施してあるのだと由梨は理解している。
「さて、話を聞かせて貰いましょうか。意地悪しちゃったお詫びに招待するわ」
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