Dear

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――それから一ヶ月経ったある日、沢山の食品を抱えルエルは帰路に着いていた。 ぐらりと揺れるが、日々歩きながら本を読んでいる為障害物を避けるのは慣れていた。 「お師匠様、本当にコレ、調理するのかしら」 ルエル宅で紅茶を飲んでいたヴィオラは、唐突に買い物をしてきて欲しいと言い出した。 自分が買いに行けば良いのだが、“夕食の煮込みをしなくちゃいけない”と言い出し何故かルエルが買って来るハメになったのだ。 ――と言っても、ヴィオラの言う料理とはご飯に焦げた魚や、パンと切ってすらいないトマト1個だったりするのだが。 「思ったより探すの手間取っちゃた」 ヴィオラから渡されたメモには聞いた事無いような調味料が書かれていた。 ヴィオラ同様、まともな料理を作れないルエルにとって、魔術の詠唱や通訳の勉強の方が簡単なモノだった。 引き摺ると中身が破ける為、何とかバランスを保ちつつ扉を開ける。 「買ってきました。腕死ぬ所でしたよ!」 「ルエル!」 「え?」 荷物を床に置いた後だったから良かったものの、勢い良く抱き付かれてバランスを崩し後ろへ倒れてしまう。 「痛っ!」 尻餅をついた事で脳震盪は逃れたが痛い事には変わり無い。しかしそれより衝撃的だったのは、自分が誰かに抱きしめられている事。 そしてその人物が予期せぬ人物だという事だ。 「お母さん?」
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