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状況を理解出来ずにぽかんとしているルエルを強く抱きしめる。
聞きたい事は沢山あるハズなのに、込み上げてくる喜びが上回り、何も考えられなくなっていた。
「え、何で?お仕事は?」
必死に頭をフル活動させて言葉を紡ぐと、母親はゆっくり体を放す。
瞳は涙で潤んでいて「良かった」と心底安心した様子で呟く。
「もうっ、心配したのよ?」
「あたしもう12歳だよ?買い出し位……」
「ルエル!」
「お父さんまで」
ルエルの姿を見て“本当に良かった”と何度も口にしていた。
何が良かったなのか理解出来なかったが、しんみりとした空気に問いかける事が出来なかった。
「本当に良かった」
母親に抱きしめられ、リビングの側にいたハズの父親までもが近寄り二人を抱きしめる。
「あれ?お兄ちゃん?」
一年は戻って来ないハズの兄まで登場し、完全に思考が飛んでしまった。
「ごめんな……本当ごめんな」
何やら懺悔し始め、激しく落ち込む兄にルエルはオロオロするしか無かった。謝罪の理由を考える余裕などとっくに無くしていた。
「え、えっ?何で、え?」
「怖かったでしょう?」
「まさか強盗が入るなんて……」
「えっ、強盗?」
自分が出かけている間に飛んでも無い事になっていたらしい。ヴィオラは怯えて震え上がるような人では無いが、もし何かあったら大変だ。
「お師匠様は!?」
慌てて問いかけると、リビングからヴィオラが顔を覗かせる。見た所揉み合って怪我を負っている様子は無い。
ルエルは安堵の息をもらす。
「良かった……お師匠様が強盗に襲われたかと思った」
「襲われかけたのは貴女でしょ!」
「たまたま逃げて来た強盗犯が家に逃げ込んで来て……ナイフで襲いかかって来たんだってな。
もし刺されていたらと思うと……ゾッとするよ」
「ヴィオラが来てくれ無かったら、ルエルに会えない所だったわ」
「強盗……襲われかけた?」
「でも、まさか家を飛び出すなんて。寂しい思いをさせてごめんなさい」
「――まさか」
ルエルの驚愕した表情の先に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるヴィオラ。親指を立ててウィンクする姿にわなわなと体が震える。
「こんなに震えて、可哀想に」
「…………お師匠様ぁぁぁああ!」
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