巡り逢い

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吉田と別れて、というよりは彼を放置して二階の廊下を進む久坂の足取りは落ち着いてはいるものの顔には不機嫌の色がありありと現れていた。 (……まったくもってついてない。あぁ、鬱陶しい。だから稔麿と一緒に行動するのは嫌なんだ) 久坂は女のことを自分と異なる性別の人間程度にしか考えてはいない。 迫られたら仕方なく体を交えてやる。 迫られたら仕方なく偽りの言葉を並べてやる。 無論、そこに愛が存在するわけもない。 久坂と吉田は長州藩(今の山口県)の私塾である松下村塾(しょうかそんじゅく)の出身で、もう何年もの付き合いになる。 が、そんな久坂は不特定多数の女と楽しそうに会話する吉田を理解できないでいた。 (アイツが解せん) 大きなため息を落とし、角を曲がった時であった。 久坂は前方から走ってきた小さな“何か”にぶつかり、よろめいた。 だが走ってきた方はそれどころではないらしい。 この旅館の女中と思しき少女は派手に後ろに倒れ、彼女が運んでいた食膳は辺りに散乱するという事態となっていた。 文句の一つでも言ってやろうと久坂が口を開こうとするより早く、少女が勢い良く立ち上がり、腰を折る。 「申し訳ありませんっ!」  
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