最悪な印象

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どうやって家に帰りついたのか、沢村はよく覚えていない。 気がついたら夕ご飯を食べていて、自分の部屋にいた。 だから兄が部屋に入ってきたのにも気づかなかった。 「浩~いるなら返事しろよ~」 「あ、ゴメン」 そういってから沢村は兄が手にしている物を見た。 「……また?」 兄が持っているのは未成年者厳禁のマンガである。ただその中身が 「いつも思うけど、なんでゲイ向けのマンガなの?」 いわゆるBLものである。 兄は単純でわかりやすい答えを言った 「面白いからだ」 「……ああ、そう」 何度も聞かされた答えだ。 大学生であるこの兄。好きな人も付き合う人も女性なのに、なぜか好きなマンガがBLものという(しかも女性向けではなく男性向けの)変わった兄である。 「これ親父に見つかったら俺、なに言われるかわからねえし」 そりゃそうだ。普通の親だったら怒らないほうが難しい。沢村は思った。 「わかったよ、じゃあいつものところに隠しとくから部屋出て」 「おう、頼んだぜ~」 兄が出たあと、受け取ったマンガをいつもの隠し場所--机にある鍵つきの引き出し--に入れ、沢村は公園で見た光景を思い出した。 まわりは暗かったが街灯で見えたあの姿…… 「やっぱり、狼男だよね……だけど……」 伝承が残るヨーロッパならともかく日本、しかも同い年にいただなんて簡単には信じられない。 「……よし」 確認してみよう。そして、本当だったらそのときにまた考えよう。沢村はそう考えた。
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